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甘さ控えめなバレンタインネタ

「あの……フェイトさん!」

「ん……ギンガ?」

後ろから知った声に呼び止められ振り向くと、予想通りの菫色が目に飛び込む。

「どうしたの?」

「えっと……その……」

少し赤みの差した顔から目線を下げると、胸元で抱えられた両手の隙間からリボンが覗く。
一瞬体が強ばったけど、努めて冷静さを保つ。
今朝からもう何度も見てきた光景だ。リボンに包まれた中身はもちろん、次の反応も概ね想像が付く。

今日だけではない。
毎年毎年この日はいつもそうだ。
このミッドチルダにまで蔓延っていた製菓業界の陰謀、二月十四日という日は――

「あ、ギンガもチョコとか作ったりするんだ」

「は、はい……」

恥ずかしそうに顔を伏せる彼女にそっと顔を近づける。
お互いの吐息を感じられるほど近くまで寄ると、彼女が体が小さく跳ねる。
可愛らしい反応に心躍らせながら、耳元で囁く。

「ね……誰にあげるの?」

普段より少し低めに、だけど威圧感は極力感じさせないように。
男役のしゃべり方から演技の仰々しさを抜いたと言うのが、一番イメージに合う。

私にチョコを持ってくるような娘は、この声で囁かれると大抵機能停止に陥る。
なのはとかなのはとか主になのはとか。

直接チョコを持ってくる勇気のある娘は、そうやって機能停止に追い込んでから

『ごめん、聞くような事じゃなかったね』

『頑張って、応援してるよ』

と畳みかけて、お引き取りを願っている。
母さんの料理で甘いものに対する耐性は付いてるけど、流石にチョコばかりは飽きるのである。
チョコを受け取らない代わりに、ひとときの幸せな時間をプレゼントするわけだから、そんなに悪い事はしていないはずだ。
あの声で囁いた後の蕩けた顔を見れば、むしろサービスである。
それに、受け取ってしまうと、後でその娘も私も大変な目に遭いかねない。
そう、これは相手の為でもあるのだ。

耳まで真っ赤に染まっているのを横目で眺めていると、このまま抱き寄せてどこかへ連れ去ってしまいたくなるけど、ぐっと堪えてタイミングを計る。私だって命は惜しい。
こんな可愛い娘をトロトロに蕩けさせて可愛く鳴かせて、最愛の人の嫉妬の炎に焼かれる――そんなのは妄想だけで充分だ。

「ごm「あ、貴方です! フェイトさん!」

「えっ、ちょ、ちょっと!」

最高のタイミングで口に出したはずの言葉は、彼女の叫びに掻き消された。
引き留めようとするけど、それは届かず、彼女の姿は廊下の角に消える。
後に残ったのは、丁寧にリボンで包装された小さな包み。

「ギンガ・ナカジマ、か……」

今まで数多の少女を煙に巻いてきた手管をいとも簡単に突破してきた彼女に、少し興味が湧いた。

「フェイトちゃん、おかえりー」

「ただいま、なのは」

部屋に戻るとなのははモニタに向かって作業中の様子。大方明日の練習メニューだろう。
その隣の自分のデスクに目を向けると、今手元にあるのと同じような包みが大量に積まれている。
先ほどの彼女のように直接渡されない場合は、どうしようもないので、ひとまずこうやって一纏めにしておく。
手に持っている包みも、そこへ一緒にしておくのが自然な流れ。
でも、そうする事はなんだか憚られたので、ポケットの中へ滑り込ませる。

「っ――」

その瞬間、鋭い殺気が全身を貫く。
これほどの殺気を放てる人間は、一人しか知らない。というか、部屋には私ともう一人しかいないわけで、その時点で確定である。
恐る恐る彼女の方を向くと、ニコニコと微笑みを浮かべた彼女と目が合う。その目が笑っていないなんて気のせいに決まってる。

「ねぇ、フェイトちゃん。私ってまだチョコ渡してなかったよね?」

「え……あ、えっと……うん、貰って、ない……よ?」

いつの通りに聞こえるけど、どこか違和感が拭えない声で彼女が尋ねる。
言いようのない威圧感に、返す答えは辿々しくぎこちないものに。
私の返答を聞いた彼女は、おもむろにデスクの引き出しを開け、左手を滑り込ませる。
そして席を立ちながら左手を抜き出すと、指の間からリボンの包装が見え隠れする。

「……」

「な、なのは!?」

しかし、それは一瞬にして積み上げられたチョコの山に消える。
乱暴に山を突き崩した左手には、もはや何も握られていない。
呆然とする私には見向きもせずスタスタと部屋を立ち去っていった。

「フェイトちゃんなんて知らない」

すれ違い様にそんな言葉を残して――

フェイトさんの一人称は久々に書いた気がする。
なのフェも久々に書いた気がする。

続きそうな雰囲気有るけど、多分続かない。